このような疑問に、愛車遍歴7台、サーキットで耐久レースに出走経験もある筆者がお答えします。
鍛造ピストンのデメリットは熱膨張率の高さ
社外品のピストンや高性能エンジンに採用されることの多い、鍛造ピストンの最大のデメリットは、その熱膨張率の高さから暖機運転がシビアになることにあります。
熱膨張率が高いと、冷間時のピストンクリアランス(ピストンとシリンダーの隙間)をあらかじめ広くとっておく必要性が出てくるので、エンジンが暖まるまでの性能に難があり、ブローバイガスなども多くなります。
鍛造ピストンは、製造時にアルミの塊に高い圧力を加えることでピストンが形成され、アルミの分子の密度が非常に高く高強度なピストンになります。
素材自体の強度が高いので、無駄な部分を削り落とすことで軽量化を計れる一方、分子レベルで起こる熱膨張に関しては、分子の密度が高い鍛造ピストンは熱膨張率が高くなる傾向にあります。
これは鍛造ピストンと鋳造ピストンに共通して言えることですが、エンジンのピストンは暖気終了時点で100%の性能を発揮出来るように作られており、厳密に言うと冷えている時は上から見るとわずかに楕円形状で、横から見るとわずかに台形となっています。
なぜそうなっているかと言うと、エンジンが暖まりピストンが熱膨張を終えた後に、完全な真円やまっすぐな円柱となることで、暖気が終わった時点で本来の性能を100%発揮出来るように、あらかじめ計算して設計されている為です。
熱膨張率が大きい鍛造ピストンの場合は、この冷間時と暖気時のピストンクリアランスの差が大きく、主にエンジンが冷えている冷間時にデメリットが出やすい傾向です。
鋳造ピストンのメリットは熱膨張率の低さ
純正ピストンや汎用エンジンに採用されることの多い、鋳造ピストンの最大のメリットは、熱膨張率が低く暖気運転をシビアに行わなくてもある程度の性能を出せることにあります。
熱膨張率が低いと、冷間時からある程度ピストンクリアランスを狭く詰めて設計することが出来るので、冷間時の性能やブローバイガスの面で有利となります。
鋳造ピストンは、溶かしたアルミを鋳型に流し込むことで製造されるので、高圧でプレスして成型する鍛造に比べてアルミの分子の密度が低く、熱膨張率もその分低くなります。
鍛造に比べて分子の密度が低く強度も低いので、部品を肉厚にする必要があり、軽量化できる範囲は限られてきますが、物理の原則として分子の密度=重量なので、必ずしも鍛造が軽く鋳造が重いということではないようです。
使用用途や目標とする耐久性により、どこまで安全マージンを削って軽量化するかは変わってきますので、例えばレース用鍛造ピストンと、市販車用の鋳造ピストンとでは要求される強度が全く異なるため、より要求強度の低い市販車用の鋳造ピストンのほうが軽く造れる場合もあります。
例えば、一般道しか走行せず、あまり暖機運転をしないラフな使い方の車のエンジンには、鍛造ピストンより鋳造ピストンのほうが向いているとも言えますし、サーキットを周回するような車のエンジンには、鍛造ピストンを採用したほうがメリットが大きいと言えます。
車の使用用途や使用目的によって、鍛造ピストンと鋳造ピストンを使い分けるのが、一番効率的なのかもしれません。
最近の鍛造ピストンは設計技術の向上で熱膨張率が低下
最近の鍛造ピストンの進化はめざましく、設計技術の向上により、より熱膨張率の低い鍛造ピストンの製造が可能となっています。
組み合わせるシリンダーの素材や、ピストンの形状などで、熱膨張の影響を最小限に抑えることが出来るようになっています。
例えば、バイクメーカーのヤマハは、チョイ乗りが多いと予想されるスクーターにも純正で鍛造ピストンを採用しており、鍛造ピストンのデメリットが払拭されつつあることがこの事実からも伺えます。
また、従来のアルミ鍛造ピストンと鋳鉄スリーブシリンダーの組み合わせでは、アルミと鉄で素材自体の熱膨張率が異なるので、より大きなピストンクリアランスを確保する必要がありました。
しかし、最近になって急速に採用が進んでいるシリンダーメッキ処理によるスリーブレスアルミシリンダーであれば、ピストンとシリンダーの素材は同じアルミなので、ピストンとシリンダーの熱膨張率が近くなり、冷間時のクリアランスをより狭くシビアに詰めることができるようになっています。

