鋳造・鍛造ピストンのメリット・デメリット

  • 鍛造ピストンのほうが全てにおいて高性能なの?
  • 鋳造ピストンには全くメリットはないの?

このような疑問にお答えします。

この記事の内容

  • 鍛造ピストンのデメリットは熱膨張率の高さ
  • 鋳造ピストンのメリットは熱膨張率の低さ
  • 最近の鍛造ピストンは設計技術の向上で熱膨張率が低下

私は学生時代の自動車部、社会人になってからのレース活動で車に関する情報を蓄積してきました。

また、サクシードを仕事とプライベートで使用しており、月平均1800キロ、年間2万キロ弱走ります。

実走で得られた情報や実績を当ブログで発信しています。

今回は鋳造・鍛造ピストンのメリット・デメリットについてご紹介しようと思います。

鍛造ピストンのデメリットは熱膨張率の高さ

社外ピストンや高性能エンジンに採用されることの多い、鍛造ピストンの最大のデメリットは、その熱膨張率の高さにあります。

冷間時のピストンクリアランス(ピストンとシリンダーの隙間)をあらかじめ広くとる必要が出てくるので、エンジンが暖まるまでの性能に難があります。

鍛造ピストンはアルミの塊に高い圧力を加えることで製造され、アルミの分子の密度が高く高強度になります。

素材自体の強度が高いので、無駄な部分を削り落とすことで軽量化を計れる反面、熱膨張は分子レベルで起こるので、分子の密度が高い鍛造ピストンは熱膨張しやすいとも言えます。

厳密に言うとエンジンが冷えている時のピストンは、上から見るとわずかに楕円形状となっていて、横から見るとわずかに台形となっています。

その理由は、エンジンが暖まりピストンが熱膨張した後に、真円やまっすぐな円柱となることで、本来の性能を発揮出来るように、あらかじめ計算のうえ設計されている為です。

鍛造ピストンの最大のデメリットは、その熱膨張率の高さにあり、それを最小限に抑えるには、しっかりと暖機運転をすることが大切です。

鋳造ピストンのメリットは熱膨張率の低さ

純正ピストンや汎用エンジンに採用されることの多い、鋳造ピストンの最大のメリットは、その熱膨張率の低さにあります。

鋳造ピストンは溶かしたアルミを型に流し込むことで製造されるので、高圧でプレスする鍛造に比べてアルミの分子の密度が低く、熱膨張率もその分低くなります。

鍛造に比べて分子の密度が低く強度は無いので、強度が必要となる部分は肉厚にする必要があり、軽量化の範囲は限られてきます。

しかし基本的には分子の密度=重量なので、必ずしも鍛造が軽く鋳造が重いということではありません。

使用用途や目標とする耐久性により、どこまで安全マージンを削って軽量化するかは変わってきます。

例えばレース用鍛造ピストンと、市販車用の鋳造ピストンとでは要求される強度が異なるため、より要求強度の低い市販車用の鋳造ピストンのほうが軽く造れる場合もあります。

熱膨張率が低いので、より冷間時のピストンクリアランスを詰めることができ、暖機運転をあまりせずともある程度の性能を発揮出来るのが鋳造ピストンの強みです。

最近の鍛造ピストンは設計技術の向上で熱膨張率が低下

最近の鍛造ピストンの進化はめざましく、設計技術の向上により、より熱膨張率の低い鍛造ピストンの製造が可能となっています。

組み合わせるシリンダーの素材やピストンの形状などで、熱膨張の影響を最小限に抑えることが出来るからです。

例えばヤマハは、チョイ乗りが多いであろうスクーターにも鍛造ピストンを採用しており、鍛造ピストンのデメリットが払拭されつつあることが伺えます。

また、従来のアルミ鍛造ピストンと鋳鉄スリーブシリンダーでは、アルミと鉄で素材の熱膨張率が異なるので、より大きなクリアランスが必要でした。

しかし、最近になって採用が進んでいるシリンダーメッキ処理によるスリーブレスアルミシリンダーであれば、ピストンとシリンダーの素材は同じアルミなので熱膨張率が近くなり、クリアランスをよりシビアに詰めることができます。

スリーブレスアルミシリンダーはコストが高く、日産R35GT-Rなど一部の特殊な車にしか採用されていませんが、今後の普及が期待されます。

このようなことから、鍛造ピストンのデメリットは少しずつ解消されてきています。